:占有移転の方法の例
Aは自己所有の動産甲を10万円でBに売却する旨の売買契約を2024年4月1日に締結した(以下これを「本件売買契約」という)。本件売買契約締結と同時にBは代金10万円をAに対して支払い、Aは動産甲をBに手渡した。
Aは自己所有の動産甲をBに対して無償で貸す旨の使用貸借契約を2024年4月1日に締結し、同日AはBに対して動産甲を手渡した。しばらくの間、動産甲を使って気に入ったBはこれを購入したい旨をAに対して告げた。Aも動産甲を売却しても良いと思い、2024年5月1日に動産甲をAがBに対して10万円で購入する旨の売買契約を締結し(以下これを「本件売買契約」という)、同日BはAに対して代金10万円を支払った。
(解説) この例の場合、本件本件売買契約によって動産甲の所有権を譲り受けるのはBである。つまりBは民法182条2項の「譲受人」に該当する。Bは本件売買契約締結の前から占有物(この例の場合の動産甲)を所持している。この例の場合、本件売買契約が民法182条2項の「当事者の意思表示」に該当し、本件売買契約が締結されたことによって同項に基づき動産甲の占有がAからBへと移転する。すなわちAからBへと引渡しがあったことになり、この時点で動産甲の所有権移転について民法178条に基づき対抗要件が具備される。
Aは自己所有の動産甲を10万円でBに売却する旨の売買契約を2024年4月1日に締結した(以下これを「本件売買契約」という)。本件売買契約と同時にBは代金10万円をAに対して支払ったが、本件売買契約締結後に友人たちと食事に行く予定だったBはAに対して「明日動産甲を取りに来るので、それまで動産甲を預かって欲しい」と依頼し、Aは「わかった」と返答した。
(解説) この例の場合、Aが民法183条の「代理人」であり、「本人」がBである。AがBに対して「わかった」と返答したことが同条の「以後本人のために占有する意思を表示したこと」に該当する。そしてAが「わかった」と返答した時点でBが動産甲の占有を取得し、この時点で動産甲の所有権がAからBへと移転したことについて民法178条に基づき第三者対抗要件が具備される。
Aは自己所有の動産甲をCに預かってもらうことにし、2024年4月1日に動産甲をCに手渡した。この日以降、CはAのために動産甲を手元で保管していた。2024年5月1日、AとBとは動産甲を目的物とする売買契約を締結し(以下これを「本件売買契約」という)、締結と同時にBはAに対して代金10万円を支払った。本件売買契約締結の翌日である2024年5月2日、AはCに対して電話をし、「以後、Bのために動産甲を保管してほしい」と告げ、Cはこれに対して「了解した」と返答した。
(解説)この例の場合、Cが民法184条の「代理人」・Aが「本人」・Bが「第三者」であり、Aからの依頼に対してCが「了解した」と返答した時点で、同条に基づきBは動産甲の占有を取得する。すなわちこの時点で民法178条に基づき動産甲の所有権がAからBへと移転したことについて第三者対抗要件が具備される。