13-1 どのような規定が置かれているか
(Case3:不法行為の例) Aは北海学園大学正門前の横断歩道を青信号で横断中、不注意により信号無視をして横断歩道に侵入したBが運転する自動車に轢かれた。Aは、この事故によって全治3ヶ月の怪我を負い、その治療費として100万円を支出した。AはBに対して治療費相当額100万円の賠償を請求することはできるか。
- A-B間に契約(例:BがAに怪我を負わせても良いとする契約や、 BがAに対して怪我を負わせたら怪我の治療費相当額を支払うとする契約)は存在しない。
- このような契約が存在しないからといって、AがBに対して治療費相当額を請求することができないとすることは妥当とはいえない。
- そこで民法709条以下に「不法行為」に関する規定が定められている。
- (Case3)の場合、Bは不注意で信号無視をして横断歩道に侵入しAのことを自動車で轢いているから、Bには過失があるといる。
- Aが怪我をしていることから、A(=他人)に対する権利侵害(Aの身体に対する侵害)があったといえる。
- Bが不注意で行なった行為と、Aへの権利侵害行為によってAが被った損害(=治療費相当額100万円)との間には因果関係があるといえる。
- したがって民法709条に基づきBはAに対して、この損害(=治療費相当額100万円)を賠償する義務を負う。すなわちAはBに対して709条に基づき治療費相当額の損害賠償請求権を有する。
13-2 不法行為
⭐️教科書275頁=「第8章 事件・事故の後始末は」も参照
13-2-1 不法行為制度の概略
- 一般ルール(原則ルール):民法709条に基づき被害者の加害者に対する損害賠償請求権が発生します。
- 民法709条が規定している要件は以下のとおりです。
- 行為者(加害者)が故意または過失によって行為を行なったこと
- 他人(被害者)の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
- 他人(被害者)に損害が発生していること
- 行為者が行なった行為と他人(被害者)が被った損害との間に因果関係があること
- 民法709条に基づいて発生する損害賠償請求権は、被害者本人の加害者本人に対する損害賠償請求権です。
- 損害賠償請求権者に関する例外は民法711条を参照してください。
- 損害賠償義務者に関する例外については民法714条〜民法718条を参照してください。
- 民法709条に該当する行為を行なった者であっても、行為者が責任能力を欠いている場合、行為者は損害賠償責任を負いません(民法712条及び713条参照)。責任能力については、教科書289頁以下「(1)責任無能力者は責任を免れます」を参照してください)
- 民法709条に該当する行為を行なった者に責任能力があったとしても、当該行為が正当防衛及び緊急避難に該当する場合は、行為者は被害者に対する損害賠償責任を負いません(民法720条1項及び2項を参照)。正当防衛及び緊急避難については教科書290頁「(2)正当防衛が認められるときは不法行為は成立しません」を参照してください。
- 損害賠償の方法(何で賠償するか)については民法722条1項に基づき民法417条が準用されるので、不法行為を理由とする損害賠償は金銭によって行われるのが原則です。ただし名誉毀損の場合には民法723条に基づき損害賠償に代えて又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を裁判所が命じることがあります。
13-3-2 民法709条の要件(1)故意又は過失
⭐️教科書・281頁以下「加害者は『故意又は過失』があるときだけ責任を負います」も参照してください。